「林地残材を活用した小さな経済の仕組みづくり」(以下「マキビト」事業と表記)は,長野県飯田市が受託した平成23年度総務省「緑の分権改革」調査事業です。飯田市の豊かな森林資源を市民が自ら活用することで,風土と人と文化が一体となった「小さな経済」と「絆」を創出することを目指しています。
山林の荒廃が深刻化する中,飯田市では市内に多く存在する薪ストーブ利用者に注目しました。山林が荒廃する原因は木材の需要が少ないことと要約できますが,一方,薪炭の安定的な確保を課題とする薪ストーブ利用者は木材の供給を問題としています。であれば山林の所有者と薪ストーブ利用者の間をつないで,山に放置される林地残材を薪ストーブ利用者が利用するという形で,双方ともに満足のいくような関係を築いていけるのではないか,というのが事業の着想でした。
この構想を現実のものとするためには,薪ストーブ利用者が自分たちで山から木材を下ろしてくる能力を有することが必要です。また,木材の搬出を個人でおこなうことは困難であるため,薪ストーブ利用者が協働できるような関係づくりも重要です。加えて,林地残材を薪炭として利用するためには,山林所有者と薪ストーブ利用者の間で円滑なコミュニケーションがとれることが必須であり,このための関係づくりも重要です。こうした認識から,山林所有者と薪ストーブ利用者の間で円滑なコミュニケーションを促進するためのネットワークづくりと,薪ストーブ利用者の技術習得が「マキビト」事業の課題として設定されました。
以下,「マキビト」事業における個別の取組と成果について報告いたします。
マキビト事業では、まず薪ストーブ利用者にチェーンソーや薪割り機、林地残材搬出用機材の操作方法など,林地残材搬出から薪づくりまでの技術を習得し「マキビト」となってもらいます。この過程で必要となる木材などは飯田市内の財産区(山林所有者)から残材を提供してもらい,「マキビト」が搬出を行ないます。搬出した材は一部を「マキビト」のものとし、残りの材を使って市内の小学校で親子薪割り体験教室を開催します。薪割り体験でつくった薪は地域内外にて販売し、その収益は「マキビト」と小学校で分配します。
こうした過程を通じて「マキビト」に林地残材搬出から薪づくりまで自立して遂行する能力を身につけてもらうと同時に、今後とも各方面と協働して活動を継続していくためのネットワークづくりが進むと期待されます。
もうひとつの重要な目的は森林を通じた「地域経済・エネルギー・環境教育」の再構築です。かつて私たちの生活が「薪」という生活必需品を通じて深く山と関わっていた頃,山林は林業従事者ばかりではなく,副業や地域の共同作業など広範囲にわたる住民の参与を受けて保たれていました。ところが現在では山へ入るのは林業の専業従事者が主で,一般の市民生活と山林の間には大きな距離があります。ですが,これからの低炭素時代には薪とかかわり,山とかかわり合って生活する層を増やしていくことが必要です。マキビト事業は薪ストーブ利用者という「薪を生活必需品とする人々」の活動を通じて,地域の子供たちや企業,あるいは外部からの観光客なども巻き込みながら,山と里の間をつなぎ直そうという試みでもあるのです。